着物は時を超える

着物は時を超える

着物、いただきました

お茶の稽古でご一緒している医療に携わる姉弟子さんから、単衣の小紋(裏地の無い普段使いの着物)を予期せずいただくことになりました。生きていれば96歳のおばあちゃんの着物。姉弟子さんの、お友達の、おばあちゃんをお世話した時の形見分けの品です。

藤の花が見ごろのこの時期に、藤色。しかも粋。すぐにでも着て歩けそうな着物で。近くで見ないとわからないような細かい文様と、やや大きめの文様を二重に染めてあり上品です。お茶会などでは、柄が細かく無地に近いものが好まれるし、お稽古着にもなります。姉弟子さんは「売りに出すのは簡単だけど、知ってる方から譲り受けた着物だから、気に入って袖を通してくれる人に」と、いただきました。


時を越えて

例えばイマドキのはっきりした着物柄を好む人にとっては、ただ地味な着物。たしかに93歳で亡くなったおばあちゃんが実際に着てたのですから、40代の私が着るには実際地味かもしれません。けれど、帯や帯揚、帯閉めのコーディネートを考えて自分の着こなしするのが、楽しいのです。姉弟子さんも、形見分けを勧められて柄に惚れて選んだとのことですが、実際着るには身丈が短いこともあり、背が低くて袖を通してくれそうな人を探していたとのことでした。

タンスの中で眠っていた着物は、二人の女性を介して遠く離れた私を選んでくれたかのようにやってきました。時を越えて、藤色の単衣が似合うこの時期に。


大正生まれのおばあちゃん

元の持ち主は、どんな女性だったのでしょう。

人生の前半は、多感な青春時代をふくめ、なんと生まれてからずっと戦争の人生でした。32年間、神とあがめた天皇がいきなり人間宣言!!天皇のための多くの国民が亡くなってまでした戦争は一体なんだったのか。今まで信じて来たものが無価値化する中で、幼児に何が正しいのかどうやって教育したのでしょうか。

できごと おばあちゃん
1914 第一次世界大戦
1923 関東大震災 1歳
1927 金融恐慌 5歳
1931 満州事変 9歳
<以後15年戦争>
1938 国家総動員法 16歳
1941 言論統制 19歳
1943 学徒出陣 21歳
1945 敗戦・占領 23歳
1945 女性参政権 23歳
1946 天皇「人間宣言 24歳

物やお金の価値、倫理観まで変わった時代。自分の意見、価値観とか感情に向き合うとか、そんなこと言ってられない時代だったんだろうな。

1955年~‘73年 高度経済成長 33-51歳
1986年 バブル景気 64歳
1991年 平成不況 69歳

この着物は、どのタイミングでしつらえたものなのか、定かではありませんが、たとう紙の感じからして、戦時中ではない気がします。茶道は昔の学校教育の一環で、女子の必須科目だったので、お茶をしていたことはそんなに珍しくない世代です。人生の後半にお茶を嗜み、余生を送った時の着物じゃないか、と姉弟子さん。

長期的な視点を

着物は古くなりません。時を越えて何度も蘇えるからです。

藤は、春夏ふたつの季節にまたがって咲くので二季草(ふたきぐさ)とも呼ばれています。

この藤色の小紋は、93歳で亡くなったおばあちゃんを想い偲ばせ、私を二季目の持ち主としました。

現代の日常生活は近視眼。時間に追われ、損得勘定、効率重視、失敗しないように目の前の事でいっぱいいっぱいになりがちです。私は、そっちに流されないように、いつの時代も変わらない普遍的なものを軸にしていきたいのです。季節の移ろいと共にある着物は、時を超えて、長期的な視点を感じさせてくれる最強ツールなのです。